13 忍び寄る脅威②
色々と手広くやっているエリミリアに、今更ながら感心するセバス。現時点で十七歳のレミエルにとってエリミリアは親戚のお姉さんのような存在であり、父への反発も手伝ってか、こちらを慕うようになったとも言える。――と、そこに、
「……ふん、随分と騒がしい先客がいたものだ」
ゴーリキに支えられながらよろよろと歩くゼーエンが、一同の前を通りかかる。こちらも救護室で回復魔法を受けてはいるものの、受けたダメージの大きさもあってか疲労困憊であり、歩くだけでも未だ支えが必要な状態てあった。
「てめーこのクソイケメン、きたねー誘いしやがって! あんなのはたまたまなんだからな、勘違いすんなよな!」
「あらあらお嬢、なんて醜い負け惜しみを……」
ゼーエンに向かって試合の延長線上のように吐き捨てるレミエルと、半ば呆れ気味の仕草でそれを面白がるエリミリア。勝利にケチをつけられた主人が怒り出さないか心配するゴーリキであったが、当の本人にそのような様子は全く見られない。
「お疲れ様です、ゼーエン。ジンオウさんのような斬撃波まで習得していたとは、まさに血の滲むような努力の賜物でしょうね」
「ジンオウ? あー、クソ親父の門下に確かそんなのが居たような居なかったような……」
セバスの話中に出てきたジンオウの名に、吐き出してスッキリした様子のレミエルが反応を見せる。剣魔神帝と名高いディルゲニア侯爵は比類なき二刀の達人であり、同じく二刀の使い手であるジンオウとのつながりはセバスも知るところであった。
一方、勝者であるはずのゼーエンは振り向く力も残されていないのか、辛うじて視線だけをセバスとレミエルへ向ける。
「……あれはぶっつけ本番だった。闘気の発現までは何とか掴めたが、今の俺では絶対に無駄撃ちはできない……お嬢様の言う通り、あんなものはたまたまだ」
負け惜しみを肯定されて拍子抜けのレミエルだが、それでも強気の姿勢は崩さない。棍をビシッとゼーエンに突きつけ、
「と、とにかく! 次は本気で叩きのめしてやるからな、クソイケメン!」
「ああ……せいぜい、殴られない努力をするさ」
そう言ったところでゼーエンが少しよろめき、慌てて体を支え直すゴーリキ。一刻も早く休ませるべく、主人の代わりに一同へ頭を下げる。
「すいやせん、皆さん。今日のところはこれで……さ、ゼーエンの旦那」
控室へと再び歩みを進める二人を見送りながら、セバスはライバルの背中が一回り以上大きくなっているのを感じていた。もはや、自分が初めて会った時の彼とは全く違う――その思いをエリミリアも感じ取ったのか、ここまで行動を共にしてきた執事の青年に向けて、今はただ穏やかな微笑みを浮かべていた。
控え室まで後少し――ゴーリキの肩に寄りかかる状態のゼーエンの背後から、不意に不気味な男の呼び声が聞こえてきた。
「ヒヒッ……ゼーエンさん、ですね?」
声と同時に回り込んで来たのは、先が二股に分かれた紫の頭巾を被り、自身のサイズ程もある大きな頭陀袋を持った人間の男であった。普段の反応速度など望むべくもない今のゼーエンの前で、男がその袋から何かを取り出す。
「こいつはプレゼントだぜ! ヒヒッ、ついでにそっちのデカブツにもな!」
鱗粉のようなものを顔面からかけられた――そう思った時には、既にゼーエンの全身を痺れが襲っていた。
〜13 忍び寄る脅威③へ続く〜